「システム開発をこのまま外注で続けるのか、思い切って内製化に踏み出すのか」——中堅企業の経営者が一度は突き当たる岐路です。1年単位で見ると外注のほうが安く見えますが、5年並べると判断は揺れます。本記事では、外注(初期費用+月次保守)と内製(採用+教育+運用)の5年TCOを並べ、内製化が育つまでの3-5年の影響、ハイブリッド型の現実解までを、資産化と組織力という長期の経営判断軸で整理します。

この記事の結論(3行)

  • 外注は初期800-1,500万+保守月15-25万、内製は採用+教育+運用で5年4,500-6,500万、TCOで見ると1,500-2,500万の差になる
  • 内製化が「使える戦力」になるまでは3-5年。途中で離職すれば資産はゼロに戻り、組織力としての蓄積が遅れる
  • 「外注で立ち上げ→重要業務だけ内製で運用」のハイブリッドが、中小・中堅企業の現実的な最適解
外注と内製のどちらに舵を切るか会議室で長期計画を議論する経営者と幹部

なぜ「1年の見積もり比較」では経営判断を誤るのか

外注と内製の費用比較で多い誤解は、「外注の見積もり1,000万円」と「内製エンジニア1名の年収600万円」を並べて、内製のほうが400万円安いと結論を出してしまうパターンです。この比較は、システム開発を「単発の費用」と捉えている時点で経営判断を誤らせます。システム開発は単発の支出ではなく、5年・10年と運用し続ける「事業資産」を作る投資です。

外注なら開発後に保守費用が継続的に発生し、内製なら採用後に教育・運用・離職リスクのコストが積み上がります。1年だけ切り取った比較は、ベンダーや採用紹介会社にとって都合のよい数字しか映しません。経営者として持つべきは、5年TCO(総保有コスト)で並べる視点と、「3年後にこの組織がどう育っているか」という時間軸です。

「機能を買う」のか「組織を育てる」のか

外注と内製の本質的な違いは費用構造ではなく、「何を残すか」にあります。外注は機能と仕様書とソースコードを成果物として残し、社内には業務知識と運用ノウハウが残ります。内製は機能に加えて、「自社の業務を理解した技術者」という組織資産を残します。

3年後に「もう一本作りたい」「既存システムを改造したい」となったとき、外注は再度ベンダー選定から始まり、内製はその場で着手できます。この差は、5年・10年で見たときの事業スピードに直結します。費用比較の前に、自社が「機能を買いたい」のか「組織を育てたい」のかを言語化することが、判断の出発点です。

5年で見ないと見えてこない「保守費の累積」

外注の見積もり書には「開発費1,000万円」と大きく書かれ、「月次保守25万円」が小さく書かれていることがよくあります。月25万円は年300万円、5年で1,500万円。開発費と同じくらいの金額が、5年後にはランニングコストとして積み上がっています。

さらに、3年目あたりで「OSやライブラリのバージョンアップ対応」「業務変更に伴う改修」が発生し、追加開発費200-500万円が乗ることも珍しくありません。1年目の見積もり書だけを見て安いと判断するのは、家を買うときに頭金だけ見て住宅ローン総額を無視するのと同じことです。

外注と内製の5年TCO比較(中堅サービス業A社の試算)

ここでは、中堅サービス業A社(従業員80名、業務システム1本を保有・改修頻度は年2-3回)という想定で、5年TCOを並べてみます。市場相場と一般的な採用条件を前提とした試算ですが、自社に当てはめるときの判断軸になります。

| 項目 | 外注(5年) | 内製(5年) | |---|---|---| | 初期開発費 | 1,200万円(一括) | 0円(人件費に含む) | | 月次保守費 | 月20万×60ヶ月=1,200万円 | 0円(人件費に含む) | | 中規模改修費 | 3年目に400万円 | 0円(人件費に含む) | | 正社員エンジニア人件費(TCO) | 0円 | 年820万×2名×5年=8,200万円 | | 採用費 | 0円 | 2名分で500-600万円 | | 教育・習熟コスト(初年度) | 0円 | 1名あたり300万円×2=600万円 | | マネジメント工数 | 0円 | 年100万円×5=500万円 | | 機材・ライセンス | 0円 | 年30万×2名×5年=300万円 | | 5年TCO合計 | 約2,800万円 | 約10,200万円 |

数字だけ並べると外注が圧倒的に安く見えますが、この表が示しているのは「同じアウトプット量」を前提とした比較ではない点に注意が必要です。内製エンジニア2名は本来、年間で2-3本のシステム新規開発と既存5本の保守ができる能力を持っています。外注で同じ仕事量をこなすと、5年で6,000-8,000万円規模に膨らみます。

判断の本質は、「自社に毎年継続的なシステム開発の需要があるかどうか」です。年に1-2本以下の改修頻度なら外注、年に3本以上の新規・改修需要が見込めるなら内製、というのが目安になります。自社の改修頻度と将来需要を 業務改善・システム見積もりAI適正診断 で整理することで、TCOの分岐点を具体的な数字で把握できます。

内製化が「使える戦力」になるまでの3-5年

内製化のもっとも見落とされがちなコストは、「育つまでの時間」です。エンジニアを採用しても、即日でシステムを書ける状態にはなりません。自社業務の理解、既存システムの構造把握、社内コミュニケーションの作法、技術選定の責任——これらすべてが揃って、はじめて「使える戦力」になります。

1年目:習熟期(戦力換算50%)

採用1年目のエンジニアは、業務理解と既存システム把握で時間の半分以上を使います。新規開発を任せられるのは小規模な周辺機能のみで、中核業務に手を入れるのは時期尚早です。この時期に外注を完全に切ると、改修速度が落ち、現場から不満が噴出します。1年目は「外注を残しつつ、内製エンジニアが脇で学ぶ」期間と位置づけるのが現実的です。

2-3年目:戦力化期(戦力換算80-100%)

2年目に入ると、業務理解が進み、既存システムの改修や中規模の新規開発を任せられる段階に到達します。3年目には1名で1本のシステムを完結させられる戦力になり、外注からの巻き取りが本格化します。この時期に経営者が陥りがちなのが、「やっと育ったから外注を一気に止める」判断です。実際には、急な業務変動や1人ではカバーしきれない領域が残るため、外注をスポットで残す体制のほうが安定します。

4-5年目:資産化期(組織力としての価値)

4-5年目に入ると、内製化は「個人の戦力」から「組織の資産」に変わります。社内に技術選定の判断軸ができ、業務とシステムの両方をわかる人材が複数になり、新人の教育もできるようになります。ここまで来てはじめて、内製化への投資が回収フェーズに入ります。

逆に言えば、ここに到達するまでの3-5年で離職が発生すると、組織資産はゼロに戻ります。1名体制の内製化が危うい理由はここにあります。

採用1年目から5年目まで内製エンジニアの戦力曲線を示すグラフを見る経営者

ハイブリッド型(外注で立ち上げ→内製で運用)の現実性

5年TCOで見ても、育成期間を加味しても、「全部外注」「全部内製」のどちらかに振り切るのは中小・中堅企業にとってリスクが大きい選択です。現実解は、外注と内製を組み合わせるハイブリッド型です。

立ち上げは外注、運用は内製

新規システムの立ち上げ(要件定義・設計・初期開発)は、外注の集中投下で短期間にやり切るのが効率的です。3-6ヶ月で初期版を稼働させ、稼働後の運用・改修・小規模機能追加を内製エンジニア1-2名で回す形に移行します。この役割分担なら、初期の大規模投資を外注で消化しつつ、運用フェーズの累積保守費を内製で抑えられます。

「業務の重要度」で内製と外注を切り分ける

すべての業務システムを内製で抱える必要はありません。中核業務(売上に直結・データの命の重さが高い)は内製、周辺業務(バックオフィス・社内ツール)は外注、というように業務の重要度で切り分けます。これにより、内製エンジニアの工数を「替えのきかない領域」に集中させ、組織資産の質を高められます。

ハイブリッド型の5年TCO(A社試算)

A社の試算をハイブリッド型で組み直すと、初期外注1,200万円+内製エンジニア1名×5年(4,100万円)+スポット外注(年200万×5年=1,000万円)=合計約6,300万円。全外注(2,800万円)よりは高いですが、全内製(10,200万円)よりは3,900万円安く、しかも組織資産が残るという構造になります。自社にとってどの組み合わせが妥当かは、業務範囲と改修頻度で変わります。手元の見積もりや人員計画を 診断する ことで、ハイブリッド型のTCOを具体的な数字で算出できます。

経営者目線で考える「資産化と組織力」

ここからが、技術論ではなく経営の話です。外注と内製の選択は、費用比較ではなく「会社に何を蓄積するか」の経営判断です。

業界では「外注は割高だから内製化すべき」「内製は採用が大変だから外注で十分」と、立場によって相反する意見が出ます。どちらも一面では正しいのですが、経営者が判断軸として持つべきは、コスト面ではなく「3年後・5年後の自社」のイメージです。

外注を続けると、社内には「外注を発注する力」が残り、業務知識と仕様書管理のノウハウが蓄積されます。一方で、システムを内部から動かす力は育ちません。内製化を進めると、社内に「自社業務をわかる技術者」が残り、改修スピードと自社固有業務への適合度が上がります。一方で、人件費は固定費として5年積み上がります。

中間マージンや多重下請けの問題も無視できません。大手SIerに発注すると、見積もりの30-40%は中間マージンに消え、実際にコードを書く下請けエンジニアは末端の工賃で動いています。内製化はこの構造から脱却する手段ですが、代わりに「採用市場で人材を取り合う」という別の構造に組み込まれます。どちらの構造で戦うかが、経営者の選択です。

判断のための問いは3つ。1つ目、「このシステムは5年後も自社の中核業務であり続けるか」。2つ目、「採用したエンジニアに、自社業務を5年学ぶ価値があるか」。3つ目、「組織として技術を育てる文化があるか」。3つすべてにYesと言えるなら内製、どれかがNoなら外注かハイブリッドが現実解になります。

ぷらすわんの実例:ある中堅サービス業A社の場合

ぷらすわんで支援した、ある中堅サービス業A社(従業員80名、業務システム1本+改修頻度は年2-3回)の実例で考えてみます。

A社はもともと、業務システムを大手SIer系に発注していました。初期開発に1,500万円、月次保守25万円、3年目に追加改修で400万円を支払い、5年累計で約3,400万円。経営者は「これが続くなら社内SEを2名採用したほうが安い」と内製化を決断する寸前でした。

ぷらすわんで5年TCOを並べ直したところ、内製2名体制は採用費・教育費・離職リスクを加味すると5年で約1億円規模になり、現状の外注より6,500万円高くつく構造でした。一方、改修頻度を見ると年2-3回程度で、内製エンジニア2名分の仕事量にはまったく届かない状態。判断を、内製2名から「外注の見直し+内製1名のハイブリッド」に切り替えました。

具体的には、新規開発はぷらすわんに移管(AI駆動開発で初期費用を1,200万→500万に圧縮)、保守はクラウド型に再構築して月25万→月8万に削減、改修対応用に内製1名を採用して既存業務知識を蓄積。結果として、5年TCOは3,400万円→2,800万円に下がり、しかも社内に技術者が1名育つ構造になりました。

経営者として得た学びは、「内製化は人数を増やすことではなく、外注と内製の境界線を正しく引くこと」だという点です。手元のシステム費用と改修頻度を 比較を依頼する ことで、A社のようなハイブリッド型の最適配分を具体的な数字で把握できます。

ハイブリッド型の5年TCO配分を示すグラフを見ながら判断する経営者

まとめ

システム開発の外注と内製の選択は、1年の見積もり比較ではなく、5年TCOと「組織として何を蓄積するか」で決まる経営判断です。外注は機能と仕様書を残し、内製は組織資産と改修スピードを残します。費用だけ見ると外注が安く、組織力で見ると内製が強い——この両方を踏まえた現実解が、ハイブリッド型です。

次に取るべき1ステップは、現状の外注費を5年累計で並べ直し、改修頻度の実数を出すこと。この2つを数字で握れば、内製化が本当に必要かどうかは自ずと見えてきます。判断の前に手元のシステム費用と改修頻度を 診断する ことで、自社に合った外注/内製/ハイブリッドの配分を具体的に把握できます。