設計事務所の業務は、図面データと案件情報が別の場所で管理されている現場がほとんどです。CADデータはNAS、案件台帳はExcel、請求はクラウド会計——3つの間で「同じ案件の情報」を毎回突き合わせる作業が発生し、所員1人あたり月10〜20時間の管理工数を食っています。本記事では設計事務所向けの業務システムを、図面管理と案件管理の連携の観点から設計する手順と、300〜700万円のレンジで現実的に着地させる考え方を経営者目線で整理します。
この記事の結論(3行)
- 案件IDをCADデータのファイル名と紐付けるだけで、図面検索と案件状況の照合が同時にできるようになる
- 設計事務所向けのパッケージは「CADソフトと連携できる前提」のものが少なく、5〜20人規模ならカスタム開発が現実解
- 図面管理と案件管理を統合すると、所員1人あたり月10時間の工数削減、3年で投資回収できる構造になる
設計事務所で図面と案件が分離してしまう3つの理由
設計事務所の業務システム化が進みにくい理由は、図面データの特殊性に集約されます。
- CADソフト(AutoCAD・Vectorworks・Jw_cad)のファイル形式が独立している
- 案件1本の進行が3ヶ月〜2年と長く、途中で担当者が変わる
- 法令変更や設計変更で図面の改訂版が10〜30個積み上がる
この3つが重なると、所員が「最新の図面はどれか」「いまどの案件のどの段階か」を確認するだけで時間を取られます。10人規模の設計事務所で月100〜200時間が、図面と案件情報の突き合わせ作業に消えている試算が一般的です。
CADソフトのファイル形式が独立している
AutoCADの.dwg、Vectorworksの.vwx、Jw_cadの.jwwといった専用形式のファイルは、案件管理ソフトから直接プレビューできません。「案件番号を見て、NASから図面を探して、CADで開いて確認する」3ステップが日常的に発生します。
案件1本の進行が長く、途中で担当者が変わる
設計事務所の案件は、基本設計から実施設計、現場監理まで含めると1〜2年に及びます。途中で担当所員が変わると、過去の経緯がメールやSlackに散らばっていて、引き継ぎだけで2〜3日かかります。
法令変更や設計変更で図面の改訂版が積み上がる
1案件で図面の改訂が10〜30回発生するのは普通です。「最新版はどれか」を間違えると、現場で施工ミスが発生し、後の責任問題に発展します。改訂履歴を管理する仕組みが必要です。
図面管理と案件管理を「案件IDで連結する」設計
設計事務所向けの業務システムを構築する鍵は、CADデータと案件情報を案件IDで連結する設計思想です。CADソフトそのものを置き換える必要はなく、案件IDを軸にした「案件カルテ」を作るだけで、図面・進捗・請求が一覧できる状態になります。
| 領域 | 現状の管理場所 | 統合後の連結方法 | |---|---|---| | 図面データ | NASフォルダ | 案件IDフォルダに自動配置、改訂履歴を記録 | | 案件情報 | Excel台帳 | 案件IDをキーにDB化、進捗を可視化 | | 請求・契約 | クラウド会計 | 案件IDから契約金額・請求状況を連携 |
この設計を実現すると、所員は案件カルテを1画面開くだけで「最新図面はこれ、現在の進捗はこの段階、請求は未請求」が確認できます。図面そのものはNAS上のままで構わず、案件カルテからリンクで開く構造で十分機能します。設計事務所の業務システム化を検討する経営者は、自社の現状から項目別に整理することで、無理のないスコープが見えてきます。
経営者目線で考える設計事務所の業務システム投資判断
設計事務所の業務システム投資は、所員の単価が高いことを前提に判断してください。1級建築士の時給換算は5000〜8000円程度で、月10時間の工数削減ができれば、所員1人あたり年間60〜100万円の効果になります。10人規模の事務所で年間600〜1000万円の効果が見込めるなら、300〜700万円の初期投資は1〜2年で回収できる計算です。
ただし、注意点が2つあります。第一に、CADデータそのものを置き換えるシステムは検討しないでください。AutoCAD互換を謳う格安CADへ移行する話と業務システム化は別問題で、混ぜると失敗します。第二に、図面の電子承認まで含めると一気にスコープが膨らみます。電子印鑑・電子サイン・改ざん防止は法的要件と絡むため、初期スコープから外すのが現実的です。
経営判断の軸としては、「所員が図面を探す時間」「最新版を確認する時間」「案件状況を聞き回る時間」の3つを削減するスコープに絞ると、300〜500万円のレンジで実用システムを構築できます。
ぷらすわんの実例:仮想A社(設計事務所・12人規模)
仮想A社は、住宅・小規模商業施設の設計を手がける12人規模の設計事務所です。年商1.8億円、進行案件は常時20〜30件で、図面はNAS、案件台帳はExcel、請求はfreeeで運用していました。
ぷらすわんが提案したのは、案件IDを軸にしたNext.js + Supabase構成の業務システムです。ポイントは3つで、第一に案件IDフォルダを自動生成してNAS上のCADデータと紐付ける仕組み、第二に図面の改訂履歴を案件カルテで一覧できる仕組み、第三にfreeeとAPI連携して請求状況を案件カルテに表示する仕組みです。費用は420万円、開発期間4ヶ月で、所員1人あたりの管理工数を月18時間から7時間に圧縮しました。
特に効果が大きかったのが、担当者引き継ぎ時間です。これまでは1案件あたり2〜3日かかっていた引き継ぎが、案件カルテを見るだけで半日に短縮されました。設計事務所の業務システムを診断する際は、「どこに時間が消えているか」の現状把握から始めるのが現実的です。
まとめ
設計事務所の業務システムは、図面データと案件情報が別の場所で管理されている現状を、案件IDで連結する設計思想で構築します。CADソフトを置き換える必要はなく、案件カルテを1画面用意するだけで、所員1人あたり月10時間の工数削減が見込めます。300〜700万円のカスタム開発で1〜2年の投資回収が可能で、3年で完全に黒字化する構造になります。設計事務所の業務システム化を検討する経営者の方は、現状の管理工数を項目別に整理してから判断する流れをお勧めします。