「導入実績100社以上」「事例多数」と書かれたシステム会社のWebサイトを見て、つい安心して発注してしまう中小企業の経営者は少なくありません。ところが蓋を開けてみると、自社と業種も規模も違う事例ばかりで、肝心の業務知識を持っていなかった——という後悔の声を、ぷらすわんの相談窓口で何度も聞いてきました。本記事では「事例多数」という言葉の罠を解きほぐし、実績を正しく確認するための5つの手順を経営者目線で整理します。

この記事の結論(3行)

  • 「導入実績100社以上」は積み上げの総数で、自社に近い実績がゼロのことも珍しくない
  • 確認すべきは件数ではなく「業種・規模・予算レンジ・直近2年」の4軸の一致度
  • 提案資料の事例より、現役担当者の名前と数字が出るヒアリング1本のほうが信頼できる
システム会社のWebサイトに並ぶ「導入実績多数」の文字と、実態を示す比較イメージ

なぜ「事例多数」は信用できないのか

中小企業の経営者がシステム会社を選ぶとき、最初に頼るのが「実績」です。Webサイトのトップに「導入100社以上」「業界シェアNo.1」と並ぶと、技術力も信頼性も担保されているように映ります。ところが、こうした表記は積み上げの総数を語っているだけで、自社の発注に対してどれだけ近い経験を持っているかとは別の話です。

  • 「100社」のうち自社と業種が一致するのは数社かもしれない
  • 「事例多数」の中身は10年以上前の案件を含んでいることがある
  • ロゴだけ並んだ事例は、実際には子会社や下請けとして関わっただけのことがある

実績の数字は、見ているだけでは判断材料にならず、自社の発注内容と照らし合わせて初めて意味を持ちます。ここを飛ばすと、提案段階で違和感がないまま発注し、要件定義の途中で「あれ、この会社は自社の業務を分かっていないのでは」と気づくことになります。

「100社」の中身は積み上げの総数

導入100社以上という表記の大半は、創業以来の累積件数です。直近2年で見ると2〜3社しか手がけていないジャンルが含まれていることもあります。古い案件はそのとき担当したエンジニアが既に退職している場合が多く、組織として知識が残っていないと、新しい案件に経験を活かせません。

「事例多数」は粒度がバラバラ

事例集に並んでいる案件は、500万円規模もあれば1億円規模もあります。粒度がバラバラのまま「多数」と表記されており、自社の予算レンジでどれだけの経験があるかは別途確認しないと分かりません。1億円規模の案件を多く手がけている会社に500万円規模を依頼すると、担当者のスキルセットが噛み合わず、想定外の進行になりやすくなります。

ロゴだけの事例は実態を隠す

大手企業のロゴが並ぶ事例ページは強い印象を残しますが、実際には子会社の業務システムをスポットで請け負っただけ、というケースがあります。ロゴの大きさより、「どの部署の・どの業務を・どれくらいの期間で・どの規模で」担当したかが分かる事例が信頼できます。

実績確認で見るべき4つの軸

実績を「件数」で評価するのを止めて、4つの軸で評価し直してください。この4軸が自社と近いほど、発注後のミスマッチが減ります。

| 軸 | 確認内容 | 判断のポイント | |---|---|---| | 業種 | 自社と同じ業種の案件があるか | 製造業・建設業など業界用語が通じるか | | 規模 | 自社と同じ予算レンジの案件があるか | 500万・1,000万など近いレンジの実績 | | 直近性 | 過去2年以内の案件があるか | 古い事例は組織の知識として残っていない場合がある | | 担当者 | 提案担当・開発担当の実績か | 会社実績と個人実績は別物 |

この4軸を全て満たす実績を出してもらえる会社は、限られています。逆に言えば、ここを正面から聞ける会社は、実績の中身を整理できている誠実な発注先である可能性が高くなります。自社の発注条件にどの軸で近い実績が必要か整理したい場合は、業務改善・システム見積もりAI適正診断で発注前の確認項目を洗い出せます。

業種の一致

業種が一致していれば、業界用語や業務フローの説明を省略でき、要件定義の質が上がります。例えば建設業の原価管理を発注するなら、建設業の案件経験があるかを必ず確認してください。「製造業の経験があるので応用できます」と返ってくる場合、応用の幅がどの程度かを具体例で説明してもらう必要があります。

規模の一致

規模感が違うと、社内体制も担当者も変わってきます。1億円規模の案件ばかり手がけている会社が500万円規模を扱うと、担当者が若手中心になりやすく、進行管理の経験が浅いケースがあります。自社の予算レンジと近い案件をどれだけ持っているかを聞いてください。

直近性

過去2年以内の案件を聞くと、組織として今もそのジャンルに取り組んでいるかが分かります。5年前の事例ばかり並ぶ場合、当時の担当者が退職し、新規案件のノウハウが薄れていることがあります。「直近2年で手がけた、自社と近い業種・規模の案件」を質問するのが効果的です。

担当者の実績

会社の実績と、自社を担当する人の実績は別物です。提案担当者・開発リーダーがそれぞれどんな案件を手がけてきたかを、名前を出さなくても良いので業種・規模・期間で説明してもらってください。ここで言葉に詰まる場合、その担当者の経験は浅い可能性があります。発注後にチームから外れる予定の有無まで聞いておくと、リリース直前に主要メンバーが交代する事故を防げます。

加えて、担当者が「途中アサイン」なのか「全工程アサイン」なのかも確認してください。要件定義だけ別の担当者が入り、開発フェーズで引き継ぎが入る座組みは、業務知識の伝言ゲームが発生しやすく、要件のズレを生みます。提案段階で名前が挙がっている担当者が、最後まで責任を持つ体制かを書面で確認するのが安全です。

4つの軸(業種・規模・直近性・担当者)で実績を評価するチェック表

1次情報を取りに行く4つの方法

事例ページや提案資料は2次情報です。本当に信頼できる発注先かを判断するには、1次情報を取りに行く工夫が必要です。代表的なのが次の4つです。

  • 既存顧客への直接ヒアリング
  • 第三者レビューサイトの口コミ確認
  • 現場担当者との非公式な対話
  • 業界カンファレンスでの登壇実績

既存顧客への直接ヒアリング

ベンダーに「直近の納品先2〜3社を紹介してほしい」と頼んでみてください。誠実な会社は紹介に協力します。紹介された顧客には、「進行はスムーズだったか」「想定外の追加費用は出たか」「リリース後のサポート品質はどうか」を率直に聞いてください。ここで生の声が拾えれば、Webサイトの事例より遥かに精度の高い判断材料になります。電話一本で30分のヒアリングが取れれば、提案書を10冊読むより信頼度が上がります。

第三者レビューサイトの口コミ確認

発注先を選ぶための第三者レビューサイトが整ってきました。星の数だけで判断するのではなく、低評価の口コミに対するベンダー側の対応を読むと、組織の姿勢が見えます。誠実な会社は、低評価にも丁寧な返信をしています。逆に低評価を完全無視しているベンダーは、納品後のトラブル対応にも温度差が出やすい傾向があります。

現場担当者との非公式な対話

提案後の打ち合わせの最後に5分でも、開発担当者と直接話す時間を作ってください。営業担当の言葉と、現場担当者の言葉のトーンが大きく違う場合、組織内で情報が分断されているサインです。実際に開発する人と話せない会社は、発注後にコミュニケーションコストが高くなりがちです。逆に、開発担当者が技術ブログや勉強会で名前を出して情報発信している会社は、組織として知見を蓄積する文化が根付いている傾向があります。

業界カンファレンスでの登壇実績

経営者が見落としがちなのが、ベンダーが業界カンファレンスやコミュニティイベントで登壇しているかどうかです。登壇するには、現場で得た知見を社外に公開できる温度感が必要で、組織として透明性が高い証拠になります。SpeakerDeckやconnpassで「ベンダー名 + 登壇」で検索すると、ここ1〜2年の活動量が見えてきます。

経営者目線で考える「実績の数字の読み解き方」

ここからは経営の話です。実績数字を読み解くときに、経営者が陥りやすい認知バイアスが2つあります。1つは「大手企業のロゴが並んでいると安心してしまう」バイアス。もう1つは「同業他社の事例があると、自社にも応用できると過大評価してしまう」バイアスです。

前者については、ロゴの大きさより「自社と同じ規模の中小企業の事例があるか」を優先してください。大手企業向けの開発と中小企業向けの開発では、求められるスピード感とコスト感覚が全く違います。中小企業向けの実績が薄い会社は、自社の発注に対しても大手向けの組織体制で臨んできて、見積もりが高くなりやすくなります。

後者については、同業他社の事例があっても「業務フローが同じとは限らない」前提を持ってください。例えば建設業でも、住宅系と土木系では業務フローが大きく違います。「業種が同じ」だけで安心せず、業務領域がどれくらい近いかを具体的に確認してください。

経営者がやるべきは、提案資料の表面を読むことではなく、自社と近い実績を引き出す「質問の設計」です。質問が浅いと、ベンダーは聞かれた範囲でしか情報を出しません。3〜5個の確認項目をリストにして、全ての候補ベンダーに同じ質問を投げると、回答の差から実力が浮かび上がってきます。同じ質問への回答を横並びで比較できるフォーマットを作るだけでも、判断軸が定量化され、社内の意思決定がスムーズに進みます。

さらに、実績は「数字の絶対値」より「数字の伸び方」で読むと精度が上がります。例えば「直近3年で売上が2倍」より「直近3年で類似業種の納品本数が3倍」のほうが、ベンダーの組織能力を映しています。決算公告や帝国データバンク・東京商工リサーチの企業情報を取り寄せると、こうした伸び方が客観的に把握できます。発注金額が1,000万円を超える案件では、5,000円程度の調査費を払ってでも見ておきたい情報です。

ぷらすわんの実例:AI Sakuの開発で重視した「直近実績」

ぷらすわんが開発した「AI Saku」の案件では、お客様から「AI開発の直近2年の実績」を厳しく問われました。当時はAIブームで、どの開発会社も「AI対応可能」と謳っていましたが、お客様が見ていたのは「2024年以降に納品したAI機能を含む案件」という具体的な実績でした。

ぷらすわんはNext.js 16 + Supabase + Stripeを使ったClaude Code開発の直近実績を、担当者名・期間・規模感で説明し、市場相場700〜1,500万円のところを500万円で受託しました。この差を生んだのは、料金だけでなく「直近実績の解像度の高さ」です。お客様は「事例多数」という抽象表現ではなく、「2024年Q4に納品した類似機能」という具体的な実績で判断していました。

中小企業の経営者がベンダーを選ぶときも、同じ姿勢が効きます。ベンダーが提示する事例多数の数字ではなく、自社と近い直近実績を1〜2件、具体的に引き出すことを目指してください。手元の発注内容に対して、確認すべき実績の観点を項目別に整理することから始めるのが現実的です。

「事例多数」より「直近2年の具体的な1件」のほうが信頼できることを示す対比図

まとめ

システム会社の実績は、「100社以上」「事例多数」という総数では判断材料になりません。業種・規模・直近性・担当者の4軸で、自社の発注内容と照らし合わせて確認してください。提案資料の2次情報だけでなく、既存顧客へのヒアリングや現場担当者との対話で1次情報を取りに行くと、判断の精度が上がります。

経営者がやるべきは、ベンダーが用意した数字を眺めることではなく、自社に必要な実績を引き出す質問を設計することです。質問が具体的になるほど、ベンダーの回答も具体的になり、両者の認識ズレが減ります。実績の確認方法を整理し直したい経営者の方は、現状の判断軸を診断する流れをお勧めします。