システム業者との打ち合わせで「話が通じない」と感じる経営者は多くいます。こちらは業務の話をしているのに技術用語で返ってくる、こちらの要望が伝わっていない気がする、業者の説明が分からないまま進んでいく——こうした違和感を抱えたままシステム開発を進めると、最終的に「思っていたのと違う」システムが納品されます。本記事では、システム業者と話が通じない構造的な原因と、共通言語を作るための3つの実践的な手法を経営者目線で整理します。

この記事の結論(3行)

  • 話が通じないのは「業務語」と「技術語」の間に翻訳機能が欠けているため。どちらか一方の責任ではない
  • 共通言語は「業務フロー図」「画面モック」「数値要件」の3つの中間言語で作れる
  • 通訳役を社内に置くか、外部の業務寄りのパートナーに頼むかで、コミュニケーションコストが大きく変わる
業務語と技術語の間で会話が噛み合わない経営者とシステム業者のイメージ

なぜシステム業者と話が通じないのか

システム業者との会話が噛み合わないのは、双方に悪意があるわけではありません。業務を専門にしている経営者と、技術を専門にしているベンダーの間には、言葉と思考の体系が違うという構造的な隔たりがあります。この隔たりを埋める「通訳役」がいないまま打ち合わせを重ねても、会話は表面的な合意で終わり、実質的な理解には届きません。

  • 経営者の語彙は「業務」中心、ベンダーの語彙は「技術」中心
  • 「何のために」を経営者が、「どうやって」をベンダーが担当する
  • 中間にいる通訳役の存在が想定されていない

通訳役の不在は、中小企業の案件で特に顕在化します。大企業なら情報システム部門が通訳役を担いますが、中小企業ではその役割を担う人材がおらず、経営者が直接ベンダーと話すしかありません。結果として、業務語と技術語の双方を理解できないまま会話が進みます。

経営者の語彙は「業務」中心、ベンダーの語彙は「技術」中心

経営者が話すのは「在庫を見える化したい」「営業の生産性を上げたい」「顧客の購買履歴を活用したい」のような業務上の課題です。一方ベンダーが話すのは「マスタテーブルの設計」「権限ロールの分離」「バッチ処理の頻度」のような技術仕様です。両者は同じシステムの話をしているはずなのに、語彙が違うために共通の理解に到達できません。

「何のために」を経営者が、「どうやって」をベンダーが担当する

役割分担としては自然な構図ですが、「何のために」と「どうやって」の間には大きな翻訳ステップがあります。経営者が「在庫の見える化」と言ったとき、それを「リアルタイム在庫表示画面」「アラート通知機能」「在庫推移グラフ」など具体的な機能に翻訳するステップが必要です。この翻訳をベンダーに丸投げすると、ベンダーの解釈次第で違うものが出来上がります。

中間にいる通訳役の存在が想定されていない

業務語と技術語の翻訳を担う「通訳役」が必要だという認識が、発注側にもベンダー側にも薄いケースが多くあります。通訳役は単に両方の言葉を知っているだけでなく、「この業務課題はこの機能で解決できる」という設計思考を持つ人材です。中小企業では社内にこうした人材がいないことが多く、外部に頼るか経営者が学ぶしか選択肢がありません。

共通言語を作る3つの中間言語

業務語と技術語の間を埋める「中間言語」が3つあります。これらを使うことで、経営者とベンダーが同じものを見て話せるようになります。

| 中間言語 | 役割 | 作る人 | 効果 | |---|---|---|---| | 業務フロー図 | 業務の流れを図解して共有 | 発注側(または通訳役) | 「何の業務か」を共有 | | 画面モック | 画面の構成と項目を視覚化 | ベンダー(発注側がレビュー) | 「どう見えるか」を共有 | | 数値要件 | 性能・精度を数値で明文化 | 双方で合意 | 「どこまで作るか」を共有 |

3つの中間言語は、それぞれ役割が異なります。どれか1つでは不十分で、3つを揃えることで会話が噛み合うようになります。発注前に共通言語の有無を整理したい場合は、業務改善・システム見積もりAI適正診断で確認できます。

中間言語1: 業務フロー図

業務フロー図は、業務の登場人物と操作の流れを図解したものです。誰が、いつ、何をするかを時系列で表現することで、ベンダーは業務を視覚的に理解できます。「営業担当が見積もり依頼を受ける → 在庫確認 → 見積書作成 → 上司承認 → 顧客送付」のような図があれば、技術仕様に翻訳する基礎ができます。

業務フロー図は発注側で作るのが理想ですが、書き慣れていないなら手書きでも構いません。重要なのは「自分たちの業務を自分たちの言葉で図にする」ことで、これがベンダーとの共通言語の出発点になります。フロー図を描く際は、登場人物(営業・経理・現場担当など)を縦のレーンに並べ、操作を上から下へ時系列で書いていく形式が読みやすくなります。1業務あたり1枚、A4サイズで収まる程度の粒度が共有しやすい範囲です。

中間言語2: 画面モック

画面モックは、システムの画面構成・項目・ボタンを視覚化したものです。手書きでも、PowerPointの簡易図でも構いません。画面モックがあることで、「ここでこのボタンを押すと何が起きる」を共有でき、機能の解釈ズレが大幅に減ります。

画面モックはベンダー側で作るのが一般的ですが、発注側がレビューする力を持つ必要があります。「自分の業務シナリオでこの画面を使ってみたら、何分かかりそうか」を想像しながらレビューすることで、現場で使えるシステムに近づきます。

中間言語3: 数値要件

性能・精度・容量などの要件を数値で明文化したものです。「検索1秒以内」「同時アクセス50ユーザー」「データ精度99%以上」のように、検証可能な数値で書くことで期待値ズレが防げます。

数値要件は双方で合意するのが基本ですが、経営者側から数値を提示すると主導権を保てます。「現場担当者の感覚では3秒は長い」「同時アクセスはピーク時に30〜50ユーザー」のような感覚値でも、数値化することでベンダーが設計の前提を立てやすくなります。数値で表現された要件は検収時の合否判定にも使えるため、リリース後の揉め事を防ぐ効果も大きい点が特徴です。

3つの中間言語が業務語と技術語の間を埋める構造を示すイメージ

経営者目線で考える「通訳役」の置き方

ここからは経営の話です。業務語と技術語の翻訳を担う通訳役を、どこに置くかは経営判断です。3つの選択肢があります。

第一に、社内に通訳役を育てる。情報システム担当または業務改革担当を1名置き、業務とITの両方を学んでもらう方法です。育成には2〜3年かかり、年収500〜700万円のコストが乗ります。長期的には最も強い選択肢ですが、即効性はありません。第二に、外部の業務寄りITパートナーに頼む。業務理解と技術知識の両方を持つコンサルタントやベンダーを通訳役にする方法です。月額30〜80万円程度のコストで、即効性があります。中小企業ではこの選択肢が現実的です。第三に、経営者自身が学ぶ。最低限のIT基礎知識(業務フロー図の書き方、データ項目の意味、画面モックの読み方)を経営者が学ぶ方法です。学習時間は3〜6ヶ月、教材費は数万円で済みます。

3つの選択肢は組み合わせ可能で、「経営者自身が基礎を学ぶ + 外部パートナーを通訳役に置く」が中小企業では最も現実的なバランスです。社内人材の育成は、その後の余裕が出てから検討するのがお勧めです。

ぷらすわんの実例:通訳役としての関わり方

ぷらすわんでは、システム開発の請負だけでなく「通訳役」としての関わり方を意識しています。ある製造業A社のケースでは、A社の経営者が複数のシステム業者から見積もりを取ったものの、どの業者の説明も理解できず判断に詰まっていました。

このケースで関わったのは、開発の請負ではなく「経営者と業者の間に立って通訳する」役割です。経営者が話す業務の課題を、ぷらすわん側で業務フロー図と画面モックに整理し、それを業者に提示しました。同時に業者の見積もり内訳を、経営者に分かる言葉で翻訳しました。結果として、経営者は3社の見積もりを「同じ前提で」比較できるようになり、納得して1社を選定しました。

このようなコミュニケーション支援の役割を、社内人材で代替できる体制が理想です。中小企業の場合、まずは経営者自身が業務フロー図を描けるようになるところから始めるのが、最初の一歩としては現実的です。発注前に通訳役の必要性を項目別に整理したい場合は、現状を整理してから検討するのがお勧めです。

経営者と業者の間に立って通訳する役割のイメージ

共通言語を作るための5つの実践

業務語と技術語の共通言語を作るための、5つの実践的なステップを整理します。

  • 経営者自身が業務フロー図を1枚描いてみる
  • 画面モックは「使う側の言葉」でレビューする
  • 数値要件は「現場担当者の感覚」から起こす
  • ベンダーの説明は「中学生に説明できるか」で測る
  • 打ち合わせの議事録は発注側で取る

この5つは、どれも経営者側から始められる項目です。ベンダー側に通訳役を期待するのではなく、発注側が主体的に共通言語を作りにいくことで、コミュニケーションの質が大きく上がります。

経営者自身が業務フロー図を1枚描いてみる

最初の一歩として、自社の代表的な業務(受注処理・在庫管理・請求書発行など)の流れを、経営者自身が1枚の図に描いてみてください。手書きで構いません。これを描く過程で、自社の業務を改めて言語化できます。ベンダーとの打ち合わせ初回でこの図を見せると、会話の質が一段上がります。

画面モックは「使う側の言葉」でレビューする

ベンダーが提示した画面モックを見るとき、「使う側の言葉」でレビューしてください。「この画面で営業担当は何分かけて入力するか」「この画面で経理担当は何件を1日で処理するか」のように、業務シナリオの中で評価することがポイントです。技術的な評価はベンダー側に任せて構いません。

数値要件は「現場担当者の感覚」から起こす

数値要件をベンダーに提示するとき、現場担当者の感覚から起こしてください。「検索が3秒以上かかると現場担当者がイライラする」「ピーク時には30人が同時に使う」のような肌感覚を、そのまま数値要件に翻訳します。理論値ではなく現場感覚が、現場で使われるシステムを作る材料になります。

ベンダーの説明は「中学生に説明できるか」で測る

ベンダーから受けた説明を、経営者が中学生に説明できるかどうかで理解度を測ってください。説明できないなら、自分が理解していないか、ベンダーの説明が抽象的すぎるかのどちらかです。「もう一度、中学生にも分かるように説明してください」と頼める関係性がベンダーとの間にあるかも重要です。優秀なベンダーほど、専門用語を使わずに業務語で説明し直せます。説明を聞いて理解できなかったとき、その場で確認できる関係性こそが、後で揉めない発注の土台になります。

打ち合わせの議事録は発注側で取る

打ち合わせの議事録は、できる限り発注側で取ってください。ベンダー側が取ると、ベンダーの解釈で文書化されるため、後で「言った言わない」が起きやすくなります。発注側が議事録を取り、ベンダーに確認してもらう流れにすると、認識のズレを早期に発見できます。発注前のコミュニケーション体制を比較を依頼する場合も、議事録の運用方法を比較軸に入れてください。

まとめ

システム業者と話が通じないのは、業務語と技術語の間に翻訳機能が欠けているためです。これを埋める3つの中間言語——業務フロー図・画面モック・数値要件——を揃えることで、共通言語が成立し、会話が噛み合うようになります。

通訳役を社内に育てるか、外部パートナーに頼むか、経営者自身が学ぶかは経営判断です。中小企業の現実的な選択は、「経営者自身が基礎を学ぶ + 外部パートナーを通訳役に置く」の組み合わせです。発注前に共通言語の有無を診断することで、コミュニケーションの不安を解消しながらシステム開発を進められます。